ほうじ茶の製造工程において重要な焙煎処理の際に起こるポリフェノール成分の化学変化を解明するために、茶葉中に最も多く含まれるポリフェノールであるエピガロカテキンガレート(EGCg)と共存成分との混合状態における加熱処理生成物を分離し、その化学構造を解析した。その結果、EGCgと茶葉中に最も多く含まれるアミノ酸であるテアニンとの共存下加熱処理したところ、EGCgのA環7位水酸基とテアニン由来のアミノ基との間でアミノカルボニル反応が起こることにより、6種の縮合生成物が得られた。そのうち2種はEGCgのA環がp-キノン構造へと変化した赤色色素であり、このような色素の生成が茶葉の焙煎による色調の変化に大きく寄与していることが示唆された。さらにEGCgとグルコースとの共存下加熱処理したところ、グルコースの1位とEGCgのA環8位または6位が縮合した生成物が得られた他、EGCg2分子とグルコース1分子が縮合した生成物も得られた。一方、EGCg、テアニン、グルコースの3種混合系において加熱処理したところ、これまでの生成物とは異なる化合物が生成した。まずテアニンとグルコースとの間でアミノカルボニル反応が起きて、ストレッカー分解によりテアニンストレッカーアルデヒドを経て1-ethyl-5-hydroxy-2-pyrrolidinoneが生成後、EGCgのA環8位と縮合することによって生成したと考えられる。以上のように、茶葉の焙煎処理による、ポリフェノール成分と共存成分との縮合機構を解明することができた。
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