本研究は、咀嚼により生じた食物片の大きさ等の解析から、咀嚼による破壊がどのような様式で起こるのか、さらにそれと密接に関連すると推察される嚥下等摂食過程を物理学的手法によって明らかにすることを目的としている。また、物性等の因子が咀嚼様式にどのような影響を及ぼすか解明するとともに、それらを組み入れたモデルを考察することで、摂食過程の総合的な理解を目指す。 まず実験研究として、代表者らの先行研究で用いられた粒度解析の方法を使って、ゲル状食品の典型的な例である魚肉ソーセージについて解析を行った。その結果、魚肉ソーセージは生ニンジンなど脆性的物性を持つ食品とは異なる破壊様式を持つことが食片サイズ分布を評価するりことにより確認された。具体的には、生ニンジンの食片サイズ分布が全体に渡って対数正規分布で評価できたのに対し、魚肉ソーセージの場合、咀嚼初期には指数分布で、それ以後は対数正規分布で評価された。魚肉ソーセージについては、グアーガムなどトロミ物質を添加した場合の咀嚼様式についても評価を行っており、これについては現在論文投稿中である。 咀嚼による食品破壊を第ゼロ近似的に見る場合、それは口腔内での歯と食品との連続破壊現象だとみなすことができる。実際、先行研究および今回行われている実験の結果から、食品サイズ分布がおおよそ対数正規分布で記述できることが確かめられている。対数正規分布は連続破壊現象により生成された破片のサイズ分布として現れることが確率過程モデルによって導かれることからもその近似の妥当性が確認できる。それらの咀嚼の基礎モデルについて考察した論文を現在2編準備中である。今後、咀嚼モデルの一般化を目指し、対数正規分布を基礎として、それに食品物性など本質的なパラメータを入れたモデルの開発を進めていく予定である。さらに本研究で得られた知見・方法を様々な系に適用することで、本研究の一般性を確認していきたい。
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