研究課題
本研究は、咀嚼により生じた食物片の大きさ等の解析から、咀嚼による破壊がどのような様式で起こるのか、さらにそれと密接に関連すると推察される嚥下等摂食過程について、数理モデルを用いた物理学的手法によって明らかにすることを目的としている。咀嚼・嚥下困難者へ有効だと考えられている調理形態の一つに刻み食がある。ただし刻み食が本当に嚥下を補助する調理形態かどうかは異論があり、研究すべき課題である。そこで平成23年度は食品物性と粒度分布に関しての昨年度の知見を用いて、食品に調理を施した場合にその咀嚼・嚥下特性がどのような影響を受けるのか実験的研究を行った。まず刻んだ魚肉ソーセージにグアーガム・キサンタンガム・デンプン・水を添加し、それを被験者に咀嚼・嚥下させることでトロミ剤の影響を調べた。5回咀嚼後の粒度分布についてはトロミ剤の粘着性に依存し、粘着性が大きいトロミ剤を添加した刻み食はバルクが対数正規分布でテイルが指数分布の形に、水やデンプンなどを添加した場合は対数正規分布で全体が表現できることが分かった。また力学測定、生体計測及び官能評価の結果から刻み食にはグアーガムやキサンタンガムを添加することが、嚥下補助により適切な調理法であることが分かった。これら二つの結果は粒度分布と嚥下のしやすさに関係があることを示唆している。我々はさらに刻み食に注目して、その刻み方による咀嚼・嚥下過程への影響について寒天ゲルを例に研究を行った。その結果、ミートグラインダーで刻んだゲルが最も嚥下しやすいのに対し、等しい大きさに切った刻み食は嚥下しにくいことが分かった。つまりサイズの不均一性がむしろ嚥下しやすさに影響を与えていることが分かった。これらの成果は論文誌への出版及び学会発表によって社会に還元している。また本研究期間を通じて得られた数理モデルなど様々な知見について、日本物理学会誌及びJournal of the Physical Society of Japanにおいて非専門家向けの招待記事を執筆した。咀嚼・嚥下など一見すると複雑な現象への物理学的アプローチの有用性を表す一つの客観的証拠としてここに挙げておく.
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Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry
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Journal of the Physical Society of Japan
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