食事から摂取する脂質について、摂取量だけでなく質的側面に着目し、健康増進と生活の質の向上に最適な必須脂肪酸バランスを追求することを目的とし、特に筋肉の形成と筋芽細胞の分化に着目した。ICR系マウスにn-6/n-3比の異なる飼料を2ヶ月間摂取させたところ、摂食量は高n-6系列脂肪酸群で高く、高n-3系列脂肪酸群で低かった。一方で、体重には食餌群間で有意な差はなかった。高n-3系列脂肪酸群では筋肉組織の重量が有意に高かったことから、n-3系列脂肪酸は筋肉量の維持に重要なことが分かった。また、血清中性脂肪、コレステロール値、肝機能指標となる逸脱酵素(GOT、GPT)は高n-3系列脂肪酸群で総じて低かった。培養細胞実験系による解析で、ラット由来L6細胞の筋細胞への分化をn-3系列脂肪酸の中で特にDHA促進することが確認された。また、DHAが生理的に作用していることを証明するために、DHAの生理作用に必要な分子群の発現が筋細胞の分化の過程でどのように制御されているのかをリルタイムPCR法で解析したところ、脂肪酸結合タンパク質(FABP)のアイソフォーム、多価不飽和脂肪酸が活性を制御することが知られている転写因子PPARのアイソフォームの発現が筋細胞への分化の過程及びDHA処理で増加していた。このようにFABPやPPARの発現促進を介してDHAをはじめとするn-3系列脂肪酸が筋細胞の分化を促進することが分かり、マウスによる給餌実験の結果とも一致したことから、筋形成におけるn-3系列脂肪酸の重要性が示された。
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