食行動の脳内機構の解明を目指して、食行動の制御要因である食物記憶・おいしさ・栄養状態が相互に作用しあうメカニズムを明らかにすることを目的に研究を行った。本年度は食物記憶に関与する扁桃体とおいしさに関与する脳内報酬系との間の神経連絡に着目した。食物記憶の実験モデルである味覚嫌悪学習に、扁桃体から脳内報酬系への神経投射が関与しているかどうかを、マンガン造影MRI法を用いて検討した。まず、ラットの扁桃体基底外側核にガイドカニューレを留置した。回復後、ラットに味覚嫌悪学習を獲得させるために、味溶液を摂取させた後で、内蔵不快感を引き起こす塩化リチウムの腹腔内投与を行い、条件づけを施した。条件づけの2日後にテストを行った。扁桃体基底外側核にマンガンを注入し、30分後に条件刺激である味溶液を呈示して、味に対する嫌悪の記憶を想起させた。さらに30分後に麻酔を施し、MRI装置で撮像を行った。ガイドカニューレの刺入位置を起点に、0.5mm厚の冠状断MR像を取得したこの撮像を1時間毎に4回繰り返した。MR画像においてマンガンの存在部位の輝度は上昇する。またマシガンは活性化したニューロンによって、順行性に輸送される。本実験では、扁桃体中心核や腹側淡蒼球の輝度が時間とともに上昇する傾向を観察した。このことから、嫌な味の記憶を想起する際に、扁桃体基底外側核から中心核や腹側淡蒼球への投射経路が活性化することが示唆された。また、高精度のMR画像を得るために、ラットの頭部を固定する器具を開発した。来年度はこの固定具について特許の取得を目指す予定である。
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