遺伝性の強い疾患は、DNAを介して子孫に伝わるのが一般的である。しかし、遺伝的背景が全く無くても、子や孫に親の疾患の影響が及ぶこと分かってきた(Nasu-Kawaharada et al. Endocrine J 2007に発表)。本研究は、ストレプトゾトシン処理により人工的に発症させた糖尿病妊娠モデルラットを作成し、この親から生まれた仔・孫への親の糖尿病の影響を検討した。さらに作成したモデルラットに正常餌、ラード(飽和脂肪酸)、魚油(n-3系不飽和脂肪酸)の3種類の餌を摂取させ、食事の影響も検討した。糖尿病である親の影響は、生化学検査やインスリンシグナル系たんぱく質のリン酸化について解析した。 生化学検査においては、血糖値は糖尿病親ラットではコントロールラットと比較して高値となったが、魚油摂取群では高値ながらもラード摂取群より低値を示した。また、仔ラットの血糖値は、出生時は高値を示したが、成長と共に低下し正常値まで低下した。中性脂肪は母・仔ラットにおいて糖尿病群で高く、その中でも魚油摂取群はラード摂取群より低下傾向を示した。n-3系不飽和脂肪酸を多く含む魚油は、母ラットや仔ラットの脂質代謝を改善することより影響を与えると考えられた。インスリンシグナルについて検討した結果、糖尿病親ラットより生まれた仔において、Akt2の発現レベルの低下とAktのリン酸化の阻害が認められた。このことから、血液の生化学的検査だけでなく、細胞内情報伝達系にも妊娠中の食事が仔に影響することが分かった。 インスリンシグナル系蛋白質を指標として、親の糖尿病の影響や食事の影響をすることが示された。今後は詳細な検討を行い、糖尿病妊婦に対する魚油の食事療法への有用性を検討していく予定である。
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