糖尿病母体から生まれた子供(IDM)では、肥大型心筋症などの合併症が40%近くにみられると報告されている。IDMの心筋肥厚は一過性で生後6ヶ月頃までには自然軽快する場合が多いが、中には死亡例の報告もある。現在、IDMに関する心疾患の臨床研究は数多く報告されているが、分子レベルでの研究はほとんど検討されていないことから、私達は、胎児期に高血糖に暴露される妊娠糖尿病モデルラットを作成して、生まれた子供の心臓への影響を解析した。心臓のインスシグナリングを解析し、心疾患に関連した分子機構を明らかにすることを目的として研究を行った。さらに妊娠期の母親の食事が、子供に大きな影響を与えることが報告されていることから、心疾患などに効果があり、魚油に多く含まれるエイコサペンタエン酸(EPA)を、妊娠期の糖尿病母ラットに投与し、生れた子供の心臓への影響を検討した。 その結果、糖尿病ラットから生まれた子供では血糖値などの生化学的所見は正常であったが、心臓においてシグナル異常が認められた。しかし、妊娠期にEPAを投与した母親から生まれた子供では、インスリンシグナルの改善が認められた。網羅的遺伝子解析及びタンパク質の糖化解析を行った結果、EPAは胎児期の子供の心臓の糖化の抑止および抗酸化防御機構の発現が認められた。本研究は、EPAを糖尿病合併症の妊婦の食事に取り入れる事で、生れた子供の耐糖機能改善と心疾患など合併症予防に役立つ可能性を示した。
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