女性ホルモンであるエストロゲンの長期曝露は、乳がんをはじめとするホルモン依存性疾患のリスク要因の1つと言われている。乳がんの発生機序として、解毒代謝酵素チトクロームP450(CYP)1を介したエストロゲン(E_2)の代謝活性化によるカテコールエストロゲン(CE)およびそのキノン体(CE-Q)生成に伴うDNA付加体形成および酸化的DNA損傷が一因と考えられている。これまでに我々は、天然物由来のフラボノイド化合物にCYP1活性阻害作用を有することを報告した(Bioorg. Med.Chem. 2010)。そこで本研究では、単細胞ゲル電気泳動(Comet assay)を用いたDNA鎖切断を指標とし、ヒト乳がん細胞によるエストロゲンのDNA損傷性並びにフラボノイド化合物の1つクリソエリオールの効果について検討した。 ヒト乳がん細胞MCF-7にE_2を添加して一定時間インキュベートした後、細胞を回収した。一方でクリソエリオールにて15分前処理を行った後、同様の処理を行った。回収した細胞をスライドグラスの上でアガロースの薄層に封入し、溶解液に60分間、次いでアルカリ性溶液に20分間浸漬しDNAの一本鎖化処理を行った後、アルカリ性条件下(pH>13)で電気泳動(25V300mA30分間)し、中和・脱水を行った。DNA染色を行った後、細胞を蛍光顕微鏡によって観察し、画像解析ソフト(Comet Analyzer)により核外へのDNA断片の流出割合を指標にDNA損傷の程度を評価した。 E2単独処理は、無処理と比較しDNA損傷(Tail Distance、Tail Moment)の増加を認めた。一方、クリソエリオール単独処理では、DNA損傷の増加は認められなかったが、クリソエリオールおよびE_2の複合処理により、DNA損傷は大幅に低下した。エストロゲンによるDNA損傷に対し、クリソエリオールをはじめとするメトキシフラボノイドが予防的に働く可能性が示唆された。
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