研究概要 |
齧歯類では、乳仔期の空腸において、吸収上皮細胞の管腔側にFcRnが発現し、摂取した母乳中のIgGを細胞内を通過させて粘膜固有層側へと輸送する機構(トランスサイトーシス)が存在することが知られている。しかし、同時期の回腸や離乳後の小腸吸収上皮細胞においては、管腔側からのIgGの選択的取り込みやトランスサイトーシスは起こらない。このIgGのトランスサイトーシス機構が食物アレルギー発症に関与する可能性が示唆されたため、形態的、機能的に明らかに異なる小腸近位部(空腸)と遠位部(回腸)、乳飲期と成熟期の小腸について、マイクロアレイを用いた遺伝子発現の解析を行った。 その結果、乳飲期の空腸は、同時期の回腸と比較して、また、成熟期の同部位と比較して、Fcgrt(Fc fragment of IgG, receptor, transporter, alpha)の発現の上昇が顕著であった。また、乳飲期の空腸は、成熟期の同部位と比較して、IgGの細胞内輸送への関与が示唆される高分子物質輸送システムに関連する遺伝子についても、発現の上昇が顕著であった。これらの成果の一部は今年度の解剖学会にて報告を行った。 本研究計画ではFcRnノックアウトマウスを入手し、実験に用いる予定であったが、残念ながら、期間内に入手することができなかった。しかしながら、小腸の時期および部位による高分子物質の取り込みと輸送機構の差異に着目し、マイクロアレイによる遺伝子発現解析を行った結果、食物アレルゲンの侵入への関与が示唆されたFcRn以外にも遺伝子発現に関して興味深い情報を得ることができた。
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