鶏Eimeria 原虫は、感染鶏に下痢・血便等を引き起こすため、鶏生産現場において極めて重要な寄生虫である。現在使用されている抗コクシジウム剤は、鶏畜産物への薬剤残留問題等を抱えており、新たな防除法の開発が強く求められている。最も病原性の高いE. tenella は、盲腸組織内での第2代無性生殖期において、シゾントが爆発的に大きくなり、分化・増殖する結果、盲腸粘膜を著しく破壊し、致死させる。よって、腸管組織内での発育は、鶏の病態発現に大きく関与する。本研究課題では、この第2代無性生殖期の分化・増殖機構を明らかにすべく、基盤情報を得るため以下の解析を行った。盲腸粘膜固有層内の第2第無性生殖期虫体を4段階に分け、シゾントのみをレーザーマイクロダイセクションにて単離し、それぞれのmRNA を得た。そして、NCBI等に登録されているE. tenella の遺伝子情報からE. tenella 特異マイクロアレイを構築し、発育段階において発現上昇する遺伝子群を同定した。その結果、細胞骨格、細胞分裂関連遺伝子等の他、いくつかのEimeria 原虫特異的な遺伝子が強発現していることが分かった。また、筆者らが保有するトランスクリプトーム解析データから部分塩基配列情報を得て、in silico 解析によりシゾントの発育に関与すると推測されるいくつかの遺伝子を選定した。そして、これら遺伝子について全長を解読し、クローニングを行い、組み換え体タンパク質を作出し、マーカーとなる抗体を得ることができた。タンパク質レベルでの解析の結果、これらの分子は盲腸組織内でのシゾントの発育中に最も発現が強くなり、シゾントの成熟に伴い消失することが確認された。これら同定された遺伝子は、シゾントの分化・増殖に必須の遺伝子である可能性があり、防除に向けた新規ターゲット分子となると考えられた。
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