大豆の脂質代謝改善効果は、大豆に含まれるタンパク質や不飽和脂肪酸等の単一成分の作用について研究がなされてきた。しかし、実際に大豆をどの程度摂取すれば効果があるのか等、複数の機能性成分が含まれる大豆そのものの作用やそのメカニズムについてはほとんど知られていなかった。本研究は、大豆を食生活に取り入れる利点を科学的に解明することを目的とし、大豆そのものの脂質代謝調節作用と大豆のタンパク質画分および脂質画分の作用、また、これら成分間の相互作用を解明するものである。22年度は、動物の大豆粉摂取量と生体での脂質代謝制御作用との関係を検討した。大豆粉が0、12.5、25、または50%(重量比)含まれるように調製した飼料で3週間ラットを飼育したところ、脂肪組織・肝臓重量、血清総コレステロール濃度、肝臓中性脂肪濃度は、食餌中の大豆粉の量依存的に低下した。このとき、肝臓における脂肪酸合成系酵素の活性は、大豆粉摂取量の増加に伴い有意に低下した。この変化はこれらの脂肪酸合成系酵素および脂肪酸脱飽和酵素の遺伝子発現量の低下を伴っており、肝臓での中性脂肪濃度の減少との関連が予想された。一方、脂肪酸酸化系酵素については、大豆粉の摂取量と酵素活性の間に明確な関連性が見られなかった。肝臓におけるコレステロール代謝関連の遺伝子発現量の変化では、ATP binding cassette sub-family Gのsubfamily 5とsubfamily 8(ABCG5、ABCG8)の発現量が大豆粉の摂取によって明らかに増加した。このことから、食品成分として分離された物質でなくても、大豆そのものの摂取は実際にラットの血清および肝臓の脂質濃度の改善に寄与し、この作用は肝臓での脂質代謝を変化させることによってもたらされることが示された。
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