本年度は認知的方略の学習を支援する教材シェルの設計・開発を行なった.既存のドリル型教材シェルを基盤として拡張することにし,ドリル教材の学習者に対して方略(インストラクショナルデザイン理論;以降ID理論)を学ぶ機能を提供している.主要な拡張の方針として次の3点が挙げられる.(1)学習者が方略を採用するに至るまでには,方略についての知識だけでなく,役に立つという実感やコスト感が重要と言われている.そのため,方略自体の知識,活用場面や方法,活用の自分への影響(メリット)等について提示することにした.ドリルの学習画面から方略の情報へアクセスできる.(2)同じ方略を多様な事例に適用できることの理解を促すために,方略を固定し登録済み(あるいはサンプル)の複数のドリルに適用して,その動きを確認できるようにした.(3)自分なりに方略を組み合わせて状況に応じて活用できるよう,カスタマイズしながら方略を試行錯誤できる環境を用意した.これらの方針をもとに開発を行ったが,評価は今後の課題となった. 一方で,教材シェルとしてだけではなく,通常の授業等においてもID理論(方略)を学習者に教えることは可能である.大学の教職科目において受講生が学んだID理論を,実際に自らの学びに活用しているのかについて調査した.結果として,ARCSモデル,9教授事象,学習成果の5分類など,学習の工夫へのID活用は実際に行われていたことが明らかとなった.これによりID理論が認知的方略として活用されることが示唆された.しかし,理論を知っていたとしても,実際の活用に至らない場合も多かった.教材シェルの方針(1)でも述べたが,学習スキルのようなメタ認知的なスキルは知識面だけでなく,実際の活用に至るまでの配慮が必要と言われており,教材シェルの場合も含めて,今後さらに検討していく必要がある.
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