本研究課題は、古代社会における建築造営史の解明を構想に据えつつ、奈良時代の日本において建造物が設計される際に用いられた計画技術(設計技術)の復元を目的とするものである。本年度は、研究2年目として、昨年度までの研究成果を踏まえ、文献研究、遺構研究を行った。 1.文献研究 建材の詳細な寸法値が残る史料として、『正倉院文書』に残る天平宝字期の石山寺造営記録を考察対象とし、造形記録からの設計技術の復元を試みた。同史料についてはこれまで約千三百余りの建材について数量・寸法値や、製材・運搬過程の整理を進めてきたが、本年度は改めて製材過程の整理と復元分析を実施した。その結果、技術的な知識を有し、建材作成の指導や作業に携わった職掌の人物を新たに比定することができ、技術情報の伝達の流れを示して学術論文として投稿した。造営過程の全体、具体的な建築形態の復元について、今後も継続して分析・考察を行ってゆく。 2.遺構研究 現存遺構と既往研究を設計技術の観点から整理し、未解明な点が多く残されている海龍王寺五重小塔を対象として設計技術の復元を試みた。未解明な点が多いのは、中世や近世における設計技術の計画方法が当てはまらない以上に、整合性や統一性のある計画概念が不明瞭であると見受けられることによる。 本年度は、前年度からの継続課題として現地調査を再び実施し、非接触型調査であることを条件に、仕様や風蝕等の視認調査、記録写真の撮影、光波測量による外寸測量、三次元デジタルデータのスキャニング等を行った。視認調査では、補修や材料の交換を確認することができ、特に下層部や正面にあたる東面には新材使用が多くあることが判明した。また、計画技法については、垂木割が左右対称ではない層もある点などを確認できた。三次元デジタルデータの情報工学的なデータ処理作業には時間を要するため、今後は具体的な形状分析から検証を行う。
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