本研究は、文化財の透過X線撮影に単色X線を用いることによって、撮影条件の体系化を目指すものである。透過撮影は文化財の研究に重要な調査方法の一つになっており、様々な研究機関で用いられているが撮影条件は体系化がなされていない。今後このような状況が続くと撮影した画像を比較したり、画像情報から科学的な知見を求めることが困難になってしまう。そこで、照射X線にこれまでの連続X線に代わり単色X線を用いると、異なるX線照射装置を使用しても同じ照射スペクトルによっての撮影が可能になるため、撮影条件が体系化できることに加えこれまで透過率の差が小さく不明瞭だった部分の透過画像が明瞭になり、透過濃度の再現性も向上する。 平成24年度は、23年度にCdZnTe半導体検出器を用いたX線スペクトル測定のシステム構築を行う予定であったが、より詳細な検討を行った結果、CdZnTe半導体を用いた検出器よりもSDDを用いた検出器がより高性能で安価であったため、予定ではなかったSDD検出器を研究に用いることにした。本検出器を用いて1.連続X線・単色X線の直接線スペクトルの測定。2.X線の光子数及び照射線量、線量当量の測定を行った結果、これまで文化財の透過撮影研究で検討されなかったX線が物質に及ぼす影響についての指標になる数値も一部得られた。しかし、本研究中に、研究期間以上の実物文化財へのより詳細な臨床実験が必要なことが分かり、そうでなければ公に研究成果を発表することができないことと判断せざるを得なかった。よって、本研究で得られた結果は、研究代表者が調査対象とする文化財に用いることはあっても、研究題目である「~新しい撮影方法の研究」の成果として発表することはなく、調査対象とした文化財資料研究の研究発表等の中で、付帯データとして扱い、本研究の成果を合わせて発表した。
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