研究概要 |
本研究の目的は,古代人の食生活を復元するために,飛行時間型二次イオン質量分析法(Time of Flight Secondary Ion Mass Spectrometry : TOF-SIMS)を用いて,土器に残存する有機物分子を分子レベルで直接同定し(非破壊分析),土器で調理された食材を推定することが可能であるか確認することである。 1)実際にTOF-SIMS分析に用いる土器にどんな有機物が残存しているかを確認しなければならない。そこで、Bristol大(英国)生物地球化学グループのEvershed教授との共同研究により、分析に用いる北海道礼文島浜中2遺跡(縄文時代後期)から出土した、海獣を調理し、その油脂や脂肪を採取するために使用されたと想定されている土器を、従来法であるGC-MSによって脂質分析を行った。その結果、Hansen et. al (2004)と同様に、土器胎土から海洋性動物に多い不飽和脂肪酸(C_<16:3>, C_<18:3>, C_<20:3>, C_<22:3>)の加熱生成物と想定されるω-アルカノイック酸が検出された。通常は検出されないこのような環状化合物とともに、動物に含まれるプリスタン酸メチル、フィタン酸メチルも検出され、さらに遺跡からは、多量の海獣骨が出土している。これらの結果は、炭素年代測定や安定同位体分析などとも整合的であり、土器で海獣を調理していたという考古学的な仮説を支持するものと考えられる。 2)TOF-SIMSを用いて,このような土器に含まれると推定される様々なステロール標準物質を分析した。標準物質が単純にイオン化されることはなく、様々な分子イオンが検出された。次に、この土器試料を測定してみると、様々なスペクトルが検出されたり、また検出できない場合もあった。今後、凹凸のある土器試料から、未知の分子イオンを検出し、起源物質を推定するには、実際にGC-MSによって検出された脂質も標準物質に加えて、イオン化条件と生成する分子イオンの関係を検討していく必要があることがわかった。
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