初年度の平成22年度では、まず西日本地域を中心とした人骨資料を中心として、骨格系のうち特に四肢骨に観察される筋・腱付着部の特徴(筋骨格ストレスマーカー:略称MSM)と、各四肢骨の関節面に認められる変形性関節炎について、データ収集が実施された。対象となった資料の年齢層は青年期以降の成人で、男女両性を扱っている。西日本地域では、統計的処理に有効な標本数が確保できる縄文時代の遺跡が限られているため、今回は比較集団として弥生時代の遺跡に注目し、全体のサンプルサイズが大きい古人骨資料について調査を実施することにした。その対象となったのは、福岡県筑紫野市の隈・西小田遺跡群(筑紫野市歴史博物館所蔵)である。当遺跡は北部九州で最多の古人骨出土数を誇っているため、統計学的にもかなり安定した標本数が得られ、該当地域における弥生時代人骨資料の代表例として、データ収集を完了することができた(男性48個体、女性18個体、総計66個体)。目下、統計処理の実施中である。また、先史時代人骨について検討する際、MSMが現代人において実際にどのように出現するのか、年齢に応じた発達・進行状況を把握し、加齢変化としてどこまで認識可能なのか、さらにその性差等を明らかにする必要がある。このため、具体的な死亡年齢の記録が残されている現代人の解剖晒骨標本を基にデータ収集を行った。該当する標本群として、京都大学総合学術博物館に所蔵の畿内現代人が対象として好適であったため、各年齢層におけるMSMの出現状況の観察とデータ化を試みた。今年度は男性42個体、女性36個体、計78個体のデータが得られたが、当初想定していた以上に京大所蔵資料が多かったため、さらに安定したサンプル数を増やすべく翌年度にも残りの個体資料をできる限りデータ化し、上記の問題点の解決に当たる予定である。
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