平成24年度中は、縄文人5集団と西南日本の弥生人3地域集団(北部九州、山口県土井ヶ浜遺跡、種子島)の成人骨においてMSM15項目についての比較検討が実施された。まず、各弥生人集団と縄文人5集団間でMSMスコア平均値のt検定が行われた。縄文人5集団との間で有意差が確認された項目数が最も多かったのは北部九州弥生人であり、その項目の多くは上肢骨(上腕骨と尺骨)で北部九州人はこれらのスコアが有意に小さくなることが示された。MSMの地域間分散を縄文人5集団と弥生人3集団で男女別に求めたところ、弥生人ではほとんどの項目で地域間分散が男性の方が大きいという結果が出た。また、男性の方が縄文人集団よりも弥生人集団の地域間分散が大きくなる傾向にあることが確認された。主成分分析により第一主成分と第二主成分から縄文・弥生各集団のプロットを散布図上に表現すると、男女とも縄文人5集団のまとまりと北部九州弥生人の位置関係は隔たったものとなった。土井ヶ浜弥生人は縄文人集団と北部九州弥生人の中間に、種子島弥生人は縄文人集団に近接する位置関係となった。 これらの結果に基づいて、以下の三点を指摘することができる。①北部九州弥生人のMSM出現パターンは明らかに縄文人集団のそれとは異質のものである。特に縄文人集団では上肢の筋利用が盛んであったのに対し、北部九州弥生人では下肢においてその傾向が強かったことが、両集団の相違を決定づけた。②弥生人3集団のMSMパターンの地域差は、特に男性で縄文人5集団間の差より大きい。これらの3地域の相違は、それぞれ異なる生業活動等に基づく筋運動パターンの多様性を示すものと理解される。③縄文人でも弥生人でも、女性よりも男性の方がMSMパターンの地域差が大きくなる。男性の方が身体活動においてよりパワフルに筋を使用する傾向にあり、地域的な生業活動の相違がMSMとして反映されやすかった。
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