研究課題/領域番号 |
22700850
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所 |
研究代表者 |
脇谷 草一郎 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 埋蔵文化財センター, 研究員 (80416411)
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キーワード | 土質遺構 / 露出展示保存 / 数値解析 / 動水勾配 / 塩類 / 不飽和水分移動特性 / ゼロフラックス面 / リーチング |
研究概要 |
展示施設内において露出展示保存された土質遺構では、遺構面において塩類が濃集、析出することによる崩壊や、過度の乾燥によって土が塑性を失い、崩落に至る事例がしばしば認められる。このような劣化が生じる主たる要因として、継続的な遺構面からの水分蒸発が挙げられる。そこで、本研究では1)遺構面から適時給水する、および2)展示施設内室空気と遺構土壌表層における水分化学ポテンシャル勾配を利用して遺構土壌表面の水分蒸発を抑制することによって、土が塑性を示す含水状態を維持して土質遺構の安定した露出展示保存法の開発を目指すものである。 平成23年度は1)土壌カラム実験における最適な給水条件の模索、および2)実際の露出展示遺構における長期の水分状態の変化を予測することを目的として、土壌表層における水蒸気移動を考慮した土中の熱水分同時移動解析に着手した。ここでは現在土質遺構の露出展示保存が進められている福島市の宮畑遺跡を対象に、モデルの構築をおこなった。解析の結果、宮畑遺跡における表層の土壌含水率は、露出すると同時に顕著な減少を示し、その後は2月頃から5月頃にかけて極小値を示し、8月頃に極大値を示す周期的な変化を示すことが示唆された。一方、深さ0.10m以深では含水率変化の振幅が大幅に減衰して、常に塑性限界より高い含水率を維持することが示唆された。次に、展示施設内室空気と外気の換気回数、および室空気に対する空調について検討をおこなった結果、1)外気の水蒸気圧が増加する夏期は換気回数を増やし、2)冬期は展示施設内室空気の気温を上昇させることで、遺構表層土壌の含水率の減少を抑制することが可能であることが示唆された。 今後は土壌カラム実験から塩の除去法について検討をおこなうと同時に、数値解析から土質遺構を保存するための制御方法について検討をおこなう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度は従来から実施のカラム実験に加えて、数値解析に取り組んだ。土中の水分移動解析に関する汎用プログラムは散見されるものの、熱や水蒸気移動を考慮出来るものは過少であったため、自らプログラムの作成に着手し、プログラミングのスキルの習得、および作成に時間を要したため。
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今後の研究の推進方策 |
カラム実験の結果と数値解析の結果の比較をおこない、数値解析のモデルの正当性について評価をおこない、実際に露出展示保存された土質遺構において、長期間にわたる環境変化を予測するモデルの構築を目指す。また、カラム実験をおこない、塩の鉛直下方へのリーチングに加えて、パルプなどの高吸湿材料をもちいた塩の除去法について検討をおこなう。
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