本研究は露出展示された土質遺構において、遺構表層からの水分蒸発を抑制する、あるいは水分を供給することによって1)遺構土壌の形状安定化、および2)可溶性塩類のリーチングをおこない、土質遺構の安定な露出展示保存法の開発を目指すものである。 本年度は、覆屋を伴う露出展示状態にある福島市宮畑遺跡を対象として調査研究を実施した。現地で外界気象条件の測定をおこなうと同時に、覆屋内空気の温度、湿度、および遺構土壌中の水分化学ポテンシャル、含水率、土壌温度、電気伝導度の測定をおこなった。これまでに遺構土壌の保水性試験と透水試験を実施しており、すでに遺構土壌の水分移動特性を得ている。そこで、現地調査から得た外界気象条件をもちいて、遺構土壌における熱水分移動解析をおこない、露出展示状態にある遺構土壌の水分環境の変化について検討した。 解析の結果、降雪によって覆屋周辺の土壌へ供給される水分の影響を考慮しきれていないものの、土中の化学ポテンシャル変化は概ね実測値と一致しており、解析モデルは妥当と考えた。また、土中の化学ポテンシャルは年周期の変動を示し、その極小値は、土壌の安定性を維持し得る高いものであることが示唆され、1)遺構土壌の保水性が高いこと、2)現在遺構は非公開のため、覆屋の換気がなされていないことが、その理由と考えられた。次に、塩析出を抑制し、遺構の安定性の維持するために許容される換気回数について検討をおこなった。解析の結果、換気回数0.2回/時間以下の場合、遺構の安定性を維持し得ることが示唆された。一方で、現地調査の結果、遺構土壌表面の一部で硫酸カルシウムの析出が認められた。難溶性塩類では蒸気圧降下の効果を殆ど示さないため、土壌からの水分蒸発の抑制、あるいは水分の供給をおこなった場合でも析出し得る。これら難溶性塩類の析出を抑制する手法、および脱塩方法については引き続き検討する予定である。
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