本研究では日本で出土するインド・パシフィックビーズについて非破壊元素測定をおこない、材質と着色材の関係からその歴史的変遷について明らかにすることを目的とする。平成24年度は関東・東北地方の資料を中心に製作技法および化学組成の分析調査を実施した。調査対象とした資料は、千葉県、埼玉県、福島県所在の遺跡から出土したガラス小玉約500点であった。また、最終年度である本年度はこれまで蓄積したデータから、弥生時代と古墳時代のインド・パシフィックビーズの化学組成を比較検討した。 インド・パシフィックビーズのうち、高アルミナソーダ石灰ガラス製のものは、コバルト着色による淡紺色、錫酸鉛と銅イオンによる黄緑色、銅コロイドによる赤褐色を呈するものが弥生時代および古墳時代の両時期に流通した。このうち、黄緑色と赤褐色のものは、弥生時代と古墳時代で基礎ガラスの化学組成がやや異なることが分かった。日本に流入した高アルミナソーダ石灰ガラス小玉の生産地が時期によって異なる可能性がある。とくに、弥生時代の黄緑色および赤褐色を呈するインド・パシフィックビーズは、典型的な高アルミナソーダ石灰ガラスに比べて酸化アルミニウムが少なく、酸化カルシウムが多い。さらに、酸化カリウムと酸化マグネシウムの含有量が多いという特徴を有する。このような弥生時代の黄緑色および赤褐色ガラス小玉と類似の特徴をもつガラス小玉がインドのアリカメドゥで特徴的に出土している。これらはアリカメドゥタイプのソーダ石灰ガラスと呼ばれ、一般的な高アルミナソーダ石灰ガラス(High-alumina mineral-soda glass: mNA)との差異が強調されている。アリカメドゥタイプのソーダ石灰ガラスには黄緑色、赤色、および黒色が多いとされており、弥生時代の類例も黄緑色および赤褐色であることから、アリカメドゥタイプに対応する可能性がある。
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