本研究では、滋賀県琵琶湖集水域の中でも、特に積雪の多い特別豪雪地帯に位置する姉川流域において溶けた融雪水が琵琶湖の中でどのような挙動をし、どのような影響を与えているのかを目的としている。近年の冬季の気温上昇により琵琶湖内での冬の循環が弱まっており、特に琵琶湖深層の溶存酸素濃度の低下が指摘されている。いっぽう、融雪起源の河川水は湖水よりも水温が低いと考えられるため深層密度流となり琵琶湖深層に酸素を供給するプロセスとなると考えられる。そこで、姉川の融雪河川水が深層密度流となっているのか、つまり深層へ酸素を供給するプロセスとなり得ているのかをこの研究によって明らかにしたいと考えている。このような姉川起源の密度流に関する研究としては、従来、3月のみの湖内係留観測による高濁度融雪水の観測報告と、河川水温と湖水温の比較から河川水が湖内に潜り込まないという報告がある。本研究では、冬季を通して湖内の多地点で係留観測を行うことにより、間欠的に発生すると考えられる密度流がどれくらいの期間、どれくらいの頻度で発生しているかを連続的に捉えようとした。その結果、1、2月に河川水温は湖水温よりも低くなっており、間欠的ではあるが、複数日にわたって深層密度流が発生していることが確認できた。この密度流は周りの湖水と比べて電気伝導度が低く、溶存酸素濃度が高かった。深層密度流の起源としては、河川水のみならず、沿岸密度流や地下水の流入も考えられる。沿岸密度流は明け方のみ発生するため、複数日連続することは考えにくく、また湖水が起源となるため、電気伝導度が周りの水塊より低くなることは考えられない。また、地下水の場合には還元状態になるため、溶存酸素濃度が高くなることは考えにくい。以上のことから、ここで観測された密度流は姉川起源のものであると考えられ、このことが本研究によって始めて確認できた。
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