本研究は、前線帯(天気図上で前線が現れやすい帯状の領域)の振る舞いに注目して日本周辺域の気候変動の実態を明らかにすることを目指すものである。平成22年度はこれを実現するために、まずは客観解析データから前線帯データを作成するための客観的手法の開発・検討をおこなった。客観解析データにはNCEP/NCARの再解析値を用いた。これは1948年以降のデータが整備されているため、他の再解析値に比べてより長期間の前線帯データの作成を可能とする。 客観的手法によって前線位置を特定する手法は先行研究において考案されているが、前線の有無の判別をおこなう際に、温度変数に何を用いるか、Thermal Front Parameter(温度変数の傾度の変化量を表す)の閾値をどのように設定するか、などが課題であった。本研究では過去29年間の気象庁地上天気図から読み取って得た、日本付近の前線の位置情報との比較によってこれらのパラメーターを定めた。結果として、過去62年間にわたる、6時間ごとの日本付近における前線位置のデータベースを整備することができた。 さらに、このデータを使って日本付近における前線帯の時空間的特徴を調べたところ、日本の気候の長期傾向やエルニーニョ/ラニーニャ現象時における日本付近の天候の季節推移を、前線帯の振る舞いにより明らかにすることができた。これらの成果は紀要論文や学会において報告した。本年度は、前線帯の振る舞いの調査から明らかになった特徴的な時期と変化に注目し、その要因を大気循環場との対応から明らかにすること、および日本各地の天候への影響を詳細に明らかにすることを目指す。
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