夏季に都市内で発生する対流性降雨の要因の一つとして,ヒートアイランド現象の影響が議論されている.本年度は,まず東京都周辺域を研究対象地域,1997年から2006年までの夏季12時から18時までを研究対象期間とし,東京都周辺域における熱環境の違いが対流性降雨の頻度に与える影響について相関分析による統計的評価を行った.対流性降雨の頻度の抽出には,前年度までに作成した面的に密な降雨分布を得ることが可能となるレーダーアメダス解析雨量を用い,都市の熱環境の違いの抽出には極軌道気象衛星NOAAから算出した地表面温度を用いた.その結果,決定係数は-0.08となり研究対象地域の対流性降雨の頻度と地表面温度の間において明確な関係を得ることができなかったが,対流性降雨の頻度分布図と対象地域の標高について比較を行うと,地表面温度が高い地域よりも標高の高い地域において頻度が高くなる傾向が見られた.このことから,研究対象地域全域では地形性起因の降雨(地形性の上昇気流の影響が大きい降雨)が大きな影響を与えていると考え,地形分類図を参考に山地・丘陵地が含まれているメッシュを対象地域から除くとともに,平地との境界領域(地形性起因の降雨が風の影響にて隣のメッシュに移動する可能性を考慮するために設定した1メッシュ分の領域)および海域が含まれるメッシュについても除くこととした.その結果,決定係数が0.38となり,東京都周辺域における熱環境の違いが対流性降雨の頻度に影響を与えているというシグナルを抽出することができた.次に,研究対象地域内にて最も都市が発展している東京都に着目し,地表面温度の他に建物パラメータ(建物密集度および建物平均階数)を加えて再度相関分析を行った.その結果,東京都においても地形性起因の降雨の影響が強く現れ,地表面温度や建物パラメータとの関係を見ることが出来なかった.
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