研究概要 |
HTLV-1はヒトT細胞に感染し、極めて悪性度の高い末梢血T細胞腫瘍ATLを引き起こす。我々はHTLV-1の感染成立および感染細胞腫瘍化の基盤となる宿主細胞恒常性の撹乱の一つとして、ウィルスによる宿主mRNA品質管理機構、Nonsense-Mediated mRNA Decay(NMD)の機能抑制に注目してきた。本研究ではウィルスがどのようにNMDを回避し感染を成立させるのか、その分子機構を解明するとともに、感染T細胞形質への影響を明らかにすることを目的としているが、H23年度は下記に注目して実験を行ったので報告する。1.マイクロアレイ解析によるATL細胞でのNMD機能不全状態の把握:我々はこれまで、遺伝子発現マイクロアレイ解析によりATL患者の遺伝子発現異常を明らかにしてきた。今年度はアレイデータを詳細に解析し、さらに確認実験を行うことにより、IL2Rα,NIK,IL15mRNAなど、ATL細胞で過剰発現しているマーカー遺伝子産物がNMDの標的mRNAであり、NMD不全により上昇している可能性を見出した。2.HTLV-1感染によるNMD機能不全の原因究明:これまでの研究により、我々はHTLV-1の感染初期に、HTLV-1 Rexが宿主NMDを抑制すること、そして腫瘍化したArL細胞でもNMDの異常があることを示した。この実験ではHTLV-1感染およびRexによって引き起こされたNMD異常が細胞にどのような影響を与えるのかを検討した。そのためにはHTLV-1感染の場を再現するモデル実験系が必要と考え、ウィルス産生細胞株MT2との共培養感染やRex(+/-) infectious cloneを用いた擬似感染系を確立した。目下これらの系を用いて、JurkatやMolt4などのT細胞株にHTLV-1を感染したときのNMD活性の変化と細胞形質の変化を解析中である。
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