我々は発癌と深い関わりを持つUHRF1が水酸化酵素JMJD6と相互作用する事を試験管内で免疫沈降法を用いて発見した。UHRF1はDNAメチル化状態の母親細胞から娘細胞への継承に寄与し、またピストンのメチル化やアセチル化等に関与する非常に重要なタンパク質である。UHRF1はヌクレオソーム近傍で機能しているため、UHRF1と結合したJMJD6がヒストンの水酸化を行っている可能性を検討した。JMJD6の細胞内局在を調べたところ、JMJD6はUHRF1と共局在する事が分かり、ピストンがJMJD6の基質となり得る事が示唆された。ピストンのリジン残基の水酸化は未だ報告がなく、ピストンのアセチル化やメチル化修飾と拮抗もしくは協調して遺伝子の転写調節に関与する新規の重要な修飾である可能性がある。我々はJMJD6がヒストンH3とH4のリジン残基を試験管内で非常に効率よく水酸化する事を実験的に証明した。我々はアミノ酸組成解析と核磁気共鳴(NMR)解析でJMJD6がリジン残基の5位の炭素に水酸基を付加する事も見いだした。この部位は、アセチル基やメチル基が付加される場所と異なるため、水酸化はアセチル化やメチル化に影響しない可能性が考えられた。そこで水酸化リジンをアセチル化酵素やメチル化酵素が修飾できるかどうかについて試験管内で検討したところ、水酸基がついたリジンはこれらの酵素によるアセチル化やメチル化を非常に受けにくくなっている事が分かり、水酸化はアセチル化やメチル化修飾と拮抗する可能性が示唆された。現在、我々は細胞内でも同様にJMJD6がヒストンリジンを修飾するのか、またアセチル化やメチル化といった修飾と拮抗して転写を制御しているのか、およびその転写制御が癌化にどう結びつくのかについて検討している。
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