本研究は、糖代謝経路によるoncogenic signalingの制御に関するメカニズムの解明を目的とし、特にO-GlcNAc修飾経路の役割に着目して解析を行うものとして開始した。当初の状況では、糖代謝経路とシグナル伝達経路の相互作用に関するメカニズムとして、ヘキソサミン合成経路の重要性を明らかにしていたが、さらに下流で関与する経路の特定までには至っていなかった。 平成22年度に行った研究の結果により、ヘキソサミン合成経路の下流においてO-GlcNAc修飾酵素として機能するOGT(O-GlcNAc transferase)が、癌細胞の表現型(シグナル活性や糖代謝活性の亢進、上皮極性の喪失など)に必須であることが明らかとなった。これは、様々な乳癌細胞を用いた3次元培養系や、乳癌患者検体のマイクロアレイ解析等の結果によっても裏付けられている。 上記の結果は、今後の研究を進めていく上で基盤となる最も重要な情報であり、平成23年度に行う研究が意味のあるものであることを保証するものである。正常乳腺上皮細胞とそれに由来する癌細胞の比較により、どの蛋白質が癌細胞特異的にO-GlcNAc修飾を受けており、その修飾がどのような意味を持つのか、順次明らかにしていく予定である。これにより、癌の治療や予防における新たな分子標的の提示ができるものと期待している。また、組織構造の形成や維持における糖代謝の意義について、新たな側面が明らかになるものと思われる。
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