本研究の最終目的は、高感度にヒト癌細胞の生着、転移を評価できるモデルマウスを作出することにある。近年、我々はBach1^<-/->マウス由来胎児線維芽細胞(MEF)が癌細胞とのin vitro共培養によってヒト癌細胞の遊走能と浸潤能を亢進させることを見出し、免疫不全Bach1^<-/->マウスの作出が移植がん細胞の高感度生着、転移モデルに繋がるのではないかと考えた。また、本モデルをよりよく活用するにはBach1の細胞内での役割およびその作用メカニズムの解明が必須である。 まず、Bach1^<-/->マウスを用いてin vivoにおいても癌細胞の悪性化に寄与するか調べた。Bach1^<-/->マウスと同系のC57BL/6マウス由来メラノーマ細胞1×10^6cells/100μlをBach1^<-/->マウスおよび野生型マウス(コントロール)の尾静脈中に移植した。その結果、野生型マウスと比較してBach1^<-/->マウスにおいてメラノーマ細胞の肺への転移が2倍以上増大した。従って、Bach1^<-/->マウスはがん細胞生着の場を高感度に与える可能性が強まった。また、複数種のヒトがん細胞にshRNAを導入することでBACH1の安定ノックダウン細胞を作製した。その細胞の増殖能、抗がん剤によるアポトーシス能を調べたところ、BACH1を失っても細胞の増殖には影響はないが、抗がん剤耐性に影響を及ぼすことが判明した。BACH1による癌細胞の抗がん剤耐性機構の解明はもちろん、この作用が薬剤代謝酵素などによって内分泌的に制御されている可能性にも注目している。本研究は転写因子BACH1を介して惹起されるがん微小環境(がん生育の場)の変化に注目することで、新たな転移および薬剤耐性の分子機構の解明につながる可能性を持つ。
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