癌研究会癌化学療法センター基礎研究部、大阪市立大学医学部腫瘍外科、安田女子大学生命薬学講座との共同研究を行い、複数種のスキルス胃癌細胞株を入手し、in vitro実験およびin vivo実験による解析を行った。同癌細胞内には一定の確率でSide Population(SP)細胞が存在するが、このSP細胞は腫瘍形成能に長け、自己複製能を有するなど、癌幹細胞様の性格を有していることを発見した。SP細胞はABCトランスポーターのひとつであるABCG2により、色素Hoechst33342を排出する特性を有しているが、ABCG2遺伝子の転写調節にはTGF-betaシグナルが深く関与していることも示唆された。クロマチン免疫沈降実験から、スキルス胃癌細胞では、TGF-betaの下流で転写因子SmadがABCG2遺伝子のプロモーター領域もしくはエンハンサー領域に直接的に結合することで、この遺伝子の転写が調節されていることも見出された。しかしながらRNA干渉法を用いて、スキルス胃癌細胞のABCG2発現をノックダウンした場合でも、造腫瘍活性が完全に喪失されることはなく、他の重要な標的の存在も想定されている。これらの研究成果は、第69回日本癌学会総会で学会報告し、Oncogene誌で論文報告を行った。これまでに、スキルス胃癌において癌幹細胞活性を有する集団を効率よく濃縮した報告はなく、今後は難治性悪性腫瘍であるスキルス胃癌の先導的な研究展開を見込んでいる。
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