Wntシグナル経路には大きく、β-catenin依存性経路と非依存性経路の二つが存在し、細胞外分泌蛋白質であるWntとその受容体であるFrizzled(Fz)、LRP5/6、Ror1/2などの組み合わせにより下流のシグナル経路を決定する。本研究は、Wntシグナル経路の有糸分裂期における機能と細胞周期に依存したWntリガンドの発現調節機構を明らかにすることを目的としている。本研究を開始するにあたり、Wntシグナル経路の構成因子のひとつであるDv12が紡錘体軸の制御に関与すること、及び、紡錘体チェックポイントに関与することを明らかにしていたが、本年度はさらに以下の知見が得られた。(1)Plk1によるDv12のリン酸化部位T206に対する非リン酸化型変異体T206Aを作成し、Dv12による紡錘体軸の制御において、Plk1によるDv12のリン酸化が必要であることを明らかにした。(2)紡錘体軸の制御に加えて、Dv12がリン酸化に依存して微小管一動原体結合を制御することを明らかにした。(3)Dv12がリン酸化非依存的に紡錘体チェックポイントを活性化し、さらに、紡錘体チェックポイントキナーゼのひとつであるMps1の活性化、及び、Bub1とBubR1の動原体集積に関与することを明らかにした。(4)Wntの受容体であるFz2とβ-catenin依存性経路の共役受容体のひとつであるLRP6が、Dv12と共に紡錘体軸の制御に関与することを明らかにした。以上の研究成果は、EMBO J.誌において公表した。さらに、上記の研究成果に加えて、β-catenin非依存性経路のWntリガンドであるWnt5a、及び、その共役受容体Ror2のノックダウン細胞において多核細胞が有意に増加したことから、Wnt5a-Ror2経路が細胞質分裂に関与することが示唆された。来年度は細胞質分裂におけるWnt5a-Ror2経路の分子機構を詳細に解析する予定である。
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