Wntシグナル経路には大きく、β-catenin依存性経路と非依存性経路の二つが存在し、細胞外分泌蛋白質であるWntとその受容体であるFrizzled(Fz)、LRP5/6、Ror1/2などの組み合わせにより下流のシグナル経路を決定する。本研究は、Wntシグナル経路の有糸分裂期における機能と細胞周期に依存したWntリガンドの発現調節機構を明らかにすることを目的としている。前年度までに、Wntシグナル経路の構成因子であるDvl1/2/3のトリプルノックダウン細胞(以降、Dvlノックダウン細胞とする)において、それぞれのシングルノックダウン細胞と同等に細胞質分裂異常の指標となる多核細胞が増加すること、さらに、βicatenin非依存性経路のWntリガンドであるWnt5a、及び、その共役受容体Ror2のノックダウン細胞においても多核細胞が有意に増加することを見出し、Wnt5aシグナル経路が細胞質分裂に関与することが示唆されたことから、本年度はその詳細な分子機構を明らかにするべく解析を行い、以下の知見が得られた。(1)Dvl2、及び、Wntシグナル経路の受容体であるFz2が細胞質分裂時に中央体に局在した。また、Fz2は分裂前期から後期までは細胞膜全周に局在するが、分裂終期移行後、Rabl1依存的にリサイクリングエンドソームを介して中央体に集積することが明らかになった。(2)Dvl2はWnt5aシグナル経路依存的に中央体に集積することが明らかになった。(3)Dvlノックダウン細胞、及び、Wnt5aノックダウン細胞では細胞間橋を構成する微小管の安定性が低下し、ESCRT-IIIのサブユニットのひとつであるCHMP4B(細胞質分裂終了時における膜器官分離に必要)の中央体における局在に異常がみられた。(4)Wnt5aシグナル依存的にFz2とCHMP4Bが複合体を形成することを明らかにした。以上のことから、Wnt5aシグナル経路が細胞間橋の微小管安定性に寄与し、さらに、Wnt5aシグナル依存的にFz2を介してCHMP4Bの局在を調節することで、細胞質分裂終了時の膜器官分離に関与することが明らかになった。本研究成果は、Journal of Cell Scienceに投稿し、査読審査中である。
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