研究概要 |
悪性胸膜中皮腫は遠隔磯器への転移は比較的稀で、周辺臓器への浸潤を特徴とする。周辺臓器への浸潤は病期の進行だけでなく、拘束性障害による呼吸困難や疼痛などによりQOLを阻害する主たる要因である。本疾患に対しては胸膜肺全摘術、放射線療法、化学療法もしくはこれらを組み合わせた集学的治療が行われているが、その成績は十分なものではなく、新たな治療法の開発が急務となっている。本研究では悪性胸膜中皮腫の特徴である"浸潤"に注目し、悪性胸膜中皮腫細胞の周辺臓器への浸潤に関わる分子を同定し、そのメカニズムの解明と浸潤を標的とした新たな治療法開発を目的としている。 これまでの検討で、in vivoで造腫瘍能のあるヒト悪性胸膜中皮腫細胞MSTO-211H,NCI-H290,Y-Meso-14について、親株と比較し浸潤能の高い細胞株(MSTO-211H/Inv3,NCI-H290/Inv5,Y-Meso-14/Inv3)をすでに樹立している。また、DNAマイクロアレイを用いて、これらの細胞株の網羅的遺伝子発現解析を行い、浸潤能亢進との関連が示唆される遺伝子群を同定している。さらに、これらの遺伝子群の中から3組の細胞株にて共通して発現が変動している遺伝子に注目し、遺伝子導入、siRNA法にて高発現もしくは発現抑制株を作成し、in vitroで浸潤能の変化を検討している。昨年度までに網羅的遺伝子発現解析により同定された遺伝子のなかに実際に悪性胸膜中皮腫細胞株の浸潤能に関わる遺伝子がみられることを確認している。方法論としての有用性が証明されたことから本年度はさらに未解析の遺伝子について同様の検討を行い、さらには安定高発現株もしくは安定発現抑制株を作成し、これらの細胞株をSCIDマウスの胸腔内に接種し、生存期間や浸潤様式を親株と比較検討する予定である。
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