上皮細胞由来の悪性腫瘍carcinomaが運動能を獲得して組織内間を浸潤・転移するとき、間葉系(mesenchymal)と丸い小庖状(amoeboid)の二つの特徴的な形態を示す運動様式がみられる。Carcinomaは外部環境に応じて可逆的にこれらの形態を変化させ、効果的に浸潤、転移を行っていると考えられている。私は、細胞運動を制御する低分子量Gタンパク質Rac1の不活化因子であるFilGAPに焦点を当てて研究を行っており、これまでにFilGAPがmesenchymal型からamoeboid型への運動様式の転換に関与することを示唆する結果を得ている(未発表)。本研究は、FilGAPを介したこの運動様式の転換がcarcinomaの浸潤、転移に及ぼす影響について解析することを目的とし、本年度は以下の成果を挙げた。 1.FilGAPは形態変化の可塑性とamoeboid型への転換に関与している 実験には高転移性のcarcinomaの一つであるヒト乳癌由来細胞株MDA-MB-231(以下MDA)を用いた。正常MDA細胞ではmesenchymal型とamoeboid型が混在し、それらが可逆的に運動様式の転換を行っていたが、FilGAPの遺伝子発現抑制によって、mesenchymal型の細胞の増加と運動様式の転換(可塑性)の減少がみられた。 2.FilGAPはcarcinomaの浸潤に関与している FilGAPの発現抑制よってMDA細胞の浸潤能が低下し、このとき浸潤した細胞ではamoeboid型の細胞の割合が減少していた。 3.FilGAPはcarcinomaの転移に関与している 免疫不全マウスの尾静脈からMDA細胞を注射し、肺組織への転移能を調べた結果、FilGAPの発現抑制よって転移能が低下する傾向がみられた。
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