研究課題/領域番号 |
22700885
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
斉藤 康二 北里大学, 理学部, 助教 (70556901)
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キーワード | 癌 / シグナル伝達 / 細胞骨格 / 細胞運動 / 浸潤、転移 / 低分子量Gタンパク / RacGAP / FilGAP |
研究概要 |
癌細胞は運動能を獲得することにより、浸潤、転移を行う。このとき癌細胞は運動に伴い様々な形態変化を繰り返している。その特徴的な形態として、細胞が進展した間葉系のmesenchymal型と丸い小疱状のamoeboid型の二つが知られている。これらの形態形成や運動はRho small GTPaseによって制御されており、それぞれmesenchymal型ではRacが、amoeboid型ではRhoとその標的分子であるROCKが関与している。癌細胞は外部環境に応じてRacとRhoの活性を調節することで形態を変化させ、効果的に浸潤、転移する手段を獲得していると考えられている。本研究では癌細胞の形態変化と運動を制御する分子メカニズムを解明することを目的に、Racの不活化因子であるFilGAPに焦点を当てて研究を行っている。 [本年度の成果] 1)FilGAPはRac活性を抑制することでamoeboid型への形態変化を促進する これまでにFilGAPの遺伝子発現抑制によって、mesenchymal型からamoeboid型の運動への転換が抑制されることを明らかにしている。今回、逆にFilGAPを過剰発現するとamoeboid型への転換が促進され、これはFilGAPのRacを不活化する働き(GAP活性)に依存していることが示された。 2)Rho/ROCKシグナル依存的なFilGAPの活性化がamoeboid型への形態変化を促進する FilGAPはRhoキナーゼであるROCKによりリン酸化され、活性化することが知られている。今回、このリン酸化が癌細胞の形態変化の制御においても重要な役割を果たしていることが示された。 以上のことから、FilGAPはRho/ROCKシグナル依存的に活性化され、Rac活性を抑制することでamoeboid型への形態
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はRacの不活化因子であるFilGAPが、1)癌細胞の形態形成と運動にどのように関与しているのか、1)関与している場合どのような作用機序が存在するのか、1)癌の浸潤、転移にどのように関与しているのか、という3課題を中心に研究を行っている。1)と2)は現段階で分子レベルでの解析がかなり進んでおり、3)もFilGAPが癌の浸潤、転移に促進的に働いていることを示唆する結果を得ていることから、以上の評価をした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、in vitro培養系を用いた解析を中心に行っている。これまでに癌細胞が形態形成と運動を制御する際のFilGAPの役割および活性化の分子メカニズムを明らかにしてきた。今後はさらに同様に培養系を用い、FilGAPが細胞内でいつどこで活性化されることで癌細胞の形態変化を制御しているのか、FilGAPの時空間制御メカニズムの解析を進めて行く予定である。そのためには現保有の顕微鏡システムでは細胞内分子動態の解析が困難なため、解析可能なシステムを次年度導入する予定である。転移能の解析はマウスを用いてin vivo実験を行い、FilGAPが転移に対して促進的に働く分子であることが示唆された。しかし、今回の解析法(肺血管外遊走アッセイ)では癌の転移過程の一部分を解析しているに過ぎない。従って、FilGAPが原発巣から他臓器への転移に本当に関与しているのかを解析するため、マウスを用いた原発巣への癌細胞の移植実験が必要である。
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