研究課題/領域番号 |
22700885
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
斉藤 康二 北里大学, 理学部, 助教 (70556901)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 癌 / シグナル伝達 / 細胞骨格 / 細胞運動 / 浸潤、転移 / 低分子量Gタンパク / RacGAP / FilGAP |
研究概要 |
癌の大半を占める上皮細胞由来の悪性腫瘍は、運動能の亢進による浸潤と転移をその性質として示す。癌による死亡要因の大部分は原発巣から他臓器への転移であるため、癌の浸潤、転移の分子機構の解明は癌研究の最重要課題の一つである。癌細胞は生体内で細胞外基質に囲まれた3次元環境を移動している。近年いくつかの癌細胞は3次元において丸い形態を示すアメーバ様遊走をすることが報告されている。 [成果1] 一般に、細胞運動を制御するRhoGTPaseであるRacとRhoは互いに拮抗的に作用している。癌細胞のアメーバ様遊走にはRacの抑制とRhoの活性化が重要である。これまでに、Racの不活化因子であるFilGAPがRac活性を抑えることでRho依存的なアメーバ様遊走を促進することを明らかにし、さらにこの機能が癌の浸潤、転移を亢進させる役割があることが示唆された。本年度、以上の内容を論文として発表した。 癌細胞のアメーバ様遊走を制御する分子機構はほとんど分かっていない。これまでにFilGAPがこの運動を制御することを明らかにしたがその詳細は不明である。そこで癌細胞のアメーバ様遊走におけるFilGAPの機能をより詳細に解析することを目的に実験を行い、本年度以下の成果を挙げた。 [成果2] FilGAPの過剰発現が癌の浸潤にどのような影響を及ぼすのかを調べるため、GFPを融合したFilGAPを恒常的に発現した細胞株をヒト乳癌由来細胞株であるMDA-MB-231で作製した。作製したGFP-FilGAP恒常発現細胞ではGFPのみを発現したコントロール細胞に比べてアメーバ様遊走する細胞が多かった。さらにコラーゲンゲル浸潤アッセイを行ったところ、GFP-FilGAPを発現した方が浸潤能が有意に高かった。今後、どのようにFilGAPが癌細胞の浸潤、特にアメーバ様遊走細胞の浸潤に貢献しているのかを解析する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究はRacの不活化因子であるFilGAPが、1)癌細胞の形態形成と運動にどのように関与しているのか、2)関与している場合どのような作用機序が存在するのか、3)癌の浸潤、転移にどのように関与しているのか、という3課題を中心に研究を行ってきた。本年度までにこれらの研究計画がほぼすべて完了し、その内容を論文としてまとめた。現在はさらに発展した研究を行っている現状を踏まえて、以上の評価をした。
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今後の研究の推進方策 |
癌細胞のアメーバ様遊走にFilGAPが関与していることがこれまでの研究から明らかとなった。さらに癌細胞が細胞外基質内へと浸潤するとき、FilGAPが重要な役割を果たしていることが示唆された。このときFilGAPを過剰発現するとアメーバ様遊走する細胞が増加したことから、FilGAPはアメーバ様遊走を促進することで癌の浸潤に亢進的に働いていると考えられる。しかしなぜFilGAPによるアメーバ様遊走の促進が浸潤能の亢進につながるのかは不明である。そこで今後、アメーバ様遊走細胞のおけるFilGAPの機能を分子レベルでより詳細に解析する予定である。これらの解析には共焦点顕微鏡ならびにタイムラプス顕微鏡等の設備が必要であるが、これらは所属学部で保有しているため解析可能である。
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