研究概要 |
癌の大半を占める上皮細胞由来の悪性腫瘍は、運動能の亢進による浸潤と転移をその性質として示す。癌による死亡要因の大部分は原発巣から他臓器への転移であるため、癌の浸潤、転移の分子機構の解明は癌研究の最重要課題の一つである。癌細胞は生体内で細胞外基質に囲まれた3次元環境を移動(浸潤)している。近年いくつかの癌細胞は3次元において、泡状の構造体(Bleb)をもつアメーバ様遊走をすることが報告されている。 [成果1] 細胞運動を制御する低分子量GタンパクRacの不活化因子であるFilGAPが、癌細胞の浸潤、転移に亢進的に働く分子であることを本研究ですでに明らかにしている(Saito et al., Mol. Biol .Cell vol.23, p4739-4750, 2012)。FilGAPは特にアメーバ様遊走に関与することが示唆されたが、その詳細は不明であった。今年度、3次元環境下でアメーバ様遊走する癌細胞において、FilGAPが細胞の後方部に局在し、後方部でRacの活性を抑制していることが示唆された。さらに、この後方部におけるRac活性の抑制が、効率的な癌の浸潤に重要であることが示唆された。このようにFilGAPはアメーバ様遊走する癌細胞において、空間的にRac活性を制御する働きがあることが示唆された。 [成果2] FilGAPがアメーバ様遊走を制御する分子機構を解析している過程で、FilGAPと結合する新規分子としてArf6を同定した。Arf6は細胞内小胞輸送やアクチン細胞骨格の再編成に関与する分子である。今年度、Arf6がFilGAPに存在するPHドメインを介して結合し、FilGAPを活性化する働きがあることが明らかになった。さらにこのArf6によるFilGAPの活性化が、アメーバ様遊走に関与するBleb構造の形成を促進することが明らかになった。
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