研究概要 |
本研究では、変異型p53による癌の浸潤・転移促進のメカニズムを明らかにし、変異型p53を分子標的とした癌治療へと繋げることを目標に、本年度はまずFLAGタグを付加した変異型p53(R175H及びR273H)のコンストラクトを作製した。そして、その変異型p53をレンチウイルスを用いて細胞に導入する系を樹立し、p53-nullのヒト肺がん細胞株H1299細胞に感染させ、変異型p53のタンパク発現を確認した。現在、マススペクトロメトリー等により変異型p53に結合するタンパク質の解析を進めている。また、変異型p53新規標的遺伝子の同定のために、変異型p53(R175H)を持つヒト乳癌細胞株SK-BR-3細胞にshRNA発現ベクターを用いて変異型p53をノックダウンさせた安定株を樹立した。これら細胞株を用いて、既知の標的として知られているId4やCdc25Cの遺伝子発現を解析したが、安定的なp53ノックダウンによる発現変化は見られず、変異型p53を一過性にノックダウンした場合と、安定的にノックダウンした場合とでは性質が異なる可能性があることが示唆された。次年度には、網羅的な解析をおこなう予定である。一方、野生型p53の結合タンパクとしてがん遺伝子Skiを同定していたが、新たにSki結合タンパクとしてヒストン脱アセチル酵素SIRT1を同定し、SkiはSIRT1をp53へリクルートしp53の脱アセチルを促すことで、Skiはp53の活性を負に制御していることを明らかにした(Inoue et al. JBC, 2010)。
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