前年度の解析では、TGF-βシグナルを負に制御する原がん遺伝子Skiがp53に結合しピストン脱アセチル化酵素sIRT1をp53にリクルートして脱アセチル化によるp53の負の制御機構を明らかにし論文として報告した。平成23年度はこのようなp53とTGF-βシグナルとのクロストークを中心に解析を進めた。 (1)新たなヒストンモディファイヤーによるTGF-βシグナル伝達の制御機構 ヒストンメチルトランスフェラーゼSET8はp53を負に制御することが知られているが、我々は新たにSET8がSmad3に結合しTGF-βのシグナル伝達ならびに増殖抑制作用を抑制することを見いだした。今後は、SET8がTGF-βや変異型p53によるEMTを介したがんの浸潤・転移への関与を検討していきたい。 (2)リジルオキシダーゼファミリー分子によるTGF-β誘導性EMTの制御 TGF-βによるEMTにリジルオキシダーゼファミリー分子が必須の役割を果たすことを見いだした。リジルオキシダーゼ分子のいくつかはTGF-13-Smad経路により発現誘導され、誘導された分子がSnailなどのEMT実行因子と協調してTGF-βによるEMTを促進させていることがわかった。今後は、TGF-βによるがんの浸潤・転移におけるリジルオキシダーゼの重要性をin vivoで詳細に解析し、TGF-βによるがんの悪性化メカニズムの理解を深めていきたい。 (3)変異型p53新規標的遺伝子の同定とその分子の機能解析 変異型p53新規標的遺伝子の探索をおこなう実験系を確立し検討を進めたが、新たなターゲットの発見には至らなかった。変異型p53は三次元培養下でその機能を強く発揮されるという報告がなされており、今後そのような条件下において変異型p53標的遺伝子の同定を目指したい。
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