これまでに、メモリーヘルパーT細胞の誘導を制御するマスター遺伝子を同定するために、マイクロアレイ解析によりメモリーT細胞で特異的に高発現する8種類の遺伝子をマスター遺伝子の候補として同定していた。平成22年度では、この8種類の候補遺伝子のなかにメモリーT細胞の形質や機能に関与するものがあるか検討した。 8種類の候補遺伝子の発現抑制によるスクリーニングから、我々はメモリーT細胞において重要な機能を果たす細胞表面分子であるCD127およびCD62Lの発現に大きく関与する遺伝子#1(仮名)を同定した。すなわち、ヒトの末梢血から得られたCD4+CD45RO+細胞(メモリーヘルパーT細胞)において、この遺伝子#1の発現を抑制させるとCD127+CD62L+細胞(メモリーT細胞)が減少し、CD127-CD62L-細胞(エフェクターT細胞)が増加した。さらに、遺伝子#1の発現が抑制されたCD4+T細胞は、アポトーシスを起こしやすいことが分かり、これはアポトーシスを抑制する遺伝子であるBcl-2の発現低下に起因することが示唆された。このように遺伝子#1は、メモリーT細胞の形質・機能を共に制御しうることが分かってきた。現在、この遺伝子#1のノックアウトマウスの作製を進めている。 これらの結果は、メモリーT細胞の深い理解はもちろん、メモリーT細胞の誘導や制御法の開発につながると期待される。興味深いことに、我々が同定した遺伝子#1は、分泌タンパクであることから、この#1タンパクを用いてメモリーT細胞の容易な誘導法が将来開発できる可能性がある。
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