癌免疫療法の成功には、ヘルパーT細胞の誘導と『質』のいい免疫反応を起こすメモリーT細胞の形成が不可欠である。我々はsingle cell由来のTh細胞クローンに形成される機能的不均一性に着目し、そこに含まれるメモリーT細胞とエフェクターT細胞の遺伝子発現の差を網羅的に解析した結果、メモリーT細胞で特異的に高発現する遺伝子(以下、遺伝子#1と記載)とエフェクターT細胞に高発現する遺伝子(以下、遺伝子#10と記載)を同定した。詳細な解析の結果、遺伝子#1は、メモリーT細胞の機能的細胞表面マーカーであるCD62LやCD127の発現、および抗アポトーシスに働く重要なタンパク質であるBcl-2の発現に関与することが明らかとなった。また、エフェクターT細胞で発現が高い遺伝子#10は、T細胞のエフェクターへの分化を正に制御していると思われた。実際に、この遺伝子#10によって制御されるシグナルカスケードを合成化合物の添加により調節することで、T細胞の分化をエフェクター、もしくはメモリーT細胞に制御することが可能であった。さらに、遺伝子#1および#10のT細胞における働きについてこれまで報告がないため、T細胞で特異的にこれらの遺伝子を欠損するコンディショナルノックアウトマウスおよび、これらの遺伝子プロモーターでLacZが発現するノックインマウスを作製した。 本研究で得られた知見や新しい遺伝子改変マウスは、T細胞の『質』を制御しうる新しい癌免疫療法開発への基盤となると期待される。
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