研究概要 |
ヘモグロビンベータ1(HBB1)は腫瘍血管の周細胞に特異的に発現して独自の抗原性を示すため腫瘍血管を標的としたがんワクチン療法において良好な標的抗原となりうることが基礎研究により示された。本研究では難治性消化管間葉系腫瘍であるGISTの治療を目的としてHBB1に対するワクチンの開発を進めている。本年度はヒトGISTの腫瘍血管細胞におけるHBB1の発現を免疫組織化学的手法で検討した。検討したGIST症例は10例で、男性8例、女性2例、平均年齢は63.5歳、組織学的に悪性3例、境界6例、良性1例で、すべてCD117の発現を認めた。典型的な周細胞におけるHBB発現陽性像では、腫瘍の毛細血管壁は赤血球より強くHBBに染色され、毛細血管壁は部分的に外側に紡錘状に肥厚してHBB陽性を示した。腫瘍血管壁は部分的に肥厚するような形でHBB陽性を示したが、腫瘍周囲正常胃粘膜の毛細血管壁はHBB陽性の所見に乏しく、腫瘍組織の毛細血管壁は正常組織毛細血管壁に比較し強くHBB染色陽性を示した。HBBの発現を蛍光抗体法により観察すると、血管壁を構成する紡錘形の有核細胞にHBBの発現が認められ、HBB陽性細胞はスキップして存在することから、血管内皮細胞というよりは、血管外側をサポートする周細胞である可能性が高いと考えられた。今回検討した10例の胃GISTにおいて、一例の判定不能例を除く9例に周細胞におけるHBBの陽性所見が認められた。しかし、その発現頻度は症例ごとに差がみられ、症例2,3,8では高頻度、症例6,9においては低頻度であった。一方、GISTの対象として9例の大腸癌組織(高分化型3例、中分化型3例、低分化型3例)で周細胞のHBB発現を検討したところ、全例においてGISTで認められた毛細血管壁のHBB陽性所見は認めなかった。
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