研究課題
本研究ではグリオーマ様幹細胞(GSC)の分化誘導スイッチング機構の解明を目的とし、ヒト患者腫瘍組織からGSCを樹立・特性解析終了後、この樹立細胞と分化誘導を行った分化誘導細胞のタンパク質およびmRNAを回収し、融合プロテオミクス法(プロテオーム:iTRAQ(MALDI-TOF/TOF,ESI-QTOF)/2D-DIGE法/トランスクリプトームDNAアレイ法の融合解析システム)を用いてこれらの細胞間における発現変動差異分子の解析を行った。その後、全てのデータをiPEACHにより統合マイニングし、GSCから非幹細胞性グリオーマへの分化・増殖のスイッチングに関与する分子群の探索・同定を行った。これにより分化誘導時における発現抑制分子として細胞周期促進因子群、翻訳制御分子群が、また、発現亢進分子群として細胞コミュニケーション因子群、接着関連分子群等がリストアップされた。特に細胞外マトリックスと接着分子群に注目し、細胞生物学的な検証実験を行った結果、GSCは細胞マトリックス成分存在下で接着因子群を介した足場依存的な分化様形態を示すことが明らかとなった。この形態変化は血清存在下でマトリックス添加によって促進され、接着因子の阻害剤存在下において抑制されることから、GSCの分化誘導には細胞外マトリックスを介した接着分子と液性因子の両方が必要不可欠であることが判明した。さらに、GSCは分化誘導時においてある種の細胞外マトリックスを自己分泌することが示唆された。本研究の成果は、GSCの幹細胞性維持/分化誘導に関与する分子群をより詳細に特定/解析することによって治療ターゲットや薬剤開発、バイオマーカー探索に応用できる可能性がある。本研究に用いた融合プロテオミクス法は世界でもトップクラスの解析システムである。融合プロテオミクス法を用いて解析することでmRNAとタンパク質における情報を網羅でき、今後この方法をシステム化することでより詳細な分子の発現機構が解明することが期待される。
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