研究概要 |
本研究ではグリオーマ様幹細胞(GSC)の分化誘導スイッチング機構の解明を目的とし、ヒト患者腫瘍組織からGSCを9クローン樹立した。これらの特性解析の後、樹立細胞を用いて、血清による分化誘導を行い分化誘導前後の細胞のタンパク質およびmRNAを回収し、融合プロテオミクス法(プロテオーム:iTRAQ(MALDI-TOF/TOF,ESI-QTOF)/2D-DIGE法/トランスクリプトームDNAアレイ法の融合解析システム)を用いてこれらの細胞間における発現変動差異分子の解析を行った。全てのデータを統合マイニングし、分化誘導によって変動する1458分子を用いてGene Ontology(GO)解析を行った結果、extracellular region(p<1.64E-11)、extracellular matrix(p<3.40E-3)、cell adhesion(p<7.33E-3)等が抽出されたことから、特に細胞接着因子群(ECM:細胞外マトリックス:COL4,FN1,LAMA2;接着因子群:ITGA2,ITGAV)、に注目した。細胞生物学的な検証実験の結果、integrinαV、-α2の接着因子とECMが分化誘導時に発現誘導されることが判明した。さらにintegrinαVとECMを介したGSCの分化誘導はαV中和抗体とRGDペプチドによって顕著に阻害されたことから、接着因子とECMの活性を制御することで、分化誘導を制御できることが明らかになり、これらがグリオーマ治療に有効なターゲットである可能性が示唆された(論文投稿中)。本研究の成果は、GSCの幹細胞性維持/分化誘導に関与する分子群をより詳細に特定/解析することによって治療ターゲットや薬剤開発、バイオマーカー探索に有用な基礎情報を与えるものである。今後、本融合プロテオミクス法を用いて得られた、mRNAとタンパク質の分子情報から、分子シグナル解析を高度化することによって、より詳細なGSCにおける分化調節機構の解明が期待される。
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