c-MET(肝細胞増殖因子(HGF)の受容体)は、種々のヒト癌で過剰発現することが知られている。ARQ197は、新しい低分子c-MET抑制薬として開発され、Phase I臨床試験で重篤な有害事象を認めず効果的な抗腫瘍活性を示すことが明らかとなったことから、臨床応用が期待されている。 我々の研究において、ヒト非小細胞肺がん株PC-9およびEGFR-TKI耐性PC-9/MET細胞株はARQ197に対してほぼ等しい感受性を示した(IC50値:約500nM)。一方、ARQ197はPC-9/METにおいてのみEGFR阻害剤erlotinibと相加的な抗腫瘍効果を示した。ARQ197は他のMET阻害剤と異なり、ATP mimicとして機能せずATP結合領域近傍に結合することが知られているが、MET阻害の分子機構は明らかとなっていない。このことから我々は、ARQ197のMET阻害分子機構について検討した。この結果、MET過剰発現が認められるPC-9/MET細胞においてARQ197処理24時間後に、特異的にMET蛋白質の発現低下が認められることが明らかとなった。c-MET mRNAの発現、安定性には影響を認めないことから、この効果はpost-translationalな調節機構が関与していると考えられた。c-MET蛋白質はubiquitin ligase cCblと結合してユビキチン/プロテアソーム経路により分解されることが知られることから、プロテアソーム阻害剤bortezomibのc-MET発現低下作用に及ぼす影響を検討した。この結果、ARQ197によるc-METの発現低下はbortezomibにより完全に抑制されることが明らかとなった。これらのデータは、ARQ197がユビキチン/プロテアソーム経路による蛋白質分解経路の活性化を介してc-METのkinase活性を抑制することを示唆する。
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