研究概要 |
アスベスト慢性曝露による悪性中皮腫は30~50年という長期潜伏期間を経て発症し,また,その予後が非常に悪いという理由で早期診断が重要な鍵となっている。これまでに,免疫担当細胞へのアスベスト曝露による抗腫瘍免疫機能の減衰について研究を進めており,アスベスト繊維の一種であるクリソタイルがHTLV-1不死化T細胞株MT-2や末梢血CD4^+T細胞への慢性曝露により,活性化T細胞やTh1型のT細胞に発現しているケモカインレセプターCXCR3の細胞膜における発現とIFN-_γ産生を低下させることを見出した。更に,末梢血CD4^+T細胞におけるCXCR3の細胞膜における発現は,健常人(HD)に比べてアスベスト起因性胸膜プラーク症例(PP)と悪性中皮腫症例(MM)で有意に低いことを明らかにした。そこで,本研究では,アスベスト曝露後の免疫指標としてCXCR3の有用性を確認するため,HD,PP,MMの末梢血CD4^+T細胞について,抗腫瘍免疫を活性化するIFN-γの遺伝子発現と産生量を測定し,CXCR3発現低下と抗腫瘍免疫機能の関連性について解析を行った。末梢血CD4^+T細胞は抗CD3/CD28抗体(各2μg/ml)で刺激後,培養5日目に細胞と培養上清を回収した。MMにおけるIFN-γ遺伝子発現はHD,PPに比べて有意に低下していたが,培養上清中のIFN-γ値に有意差は認められなかった。CD4^+T細胞の細胞膜CXCR3発現と培養5日目のIFN-γ遺伝子発現の相関性は,有意差はなかったが,HDは緩やかな正の相関性を示し,予想と反してPPは逆相関を示した。また,MMはいずれの発現も低いため相関性を示さなかった。本研究結果からCXCR3発現低下とは異なり,CD4^+T細胞のIFN-γ産生能の減弱はアスベスト曝露と中皮腫の存在により誘導されることが示唆され,腫瘍を持たないPPではIFN-γ産生能が維持されているため抗腫瘍免疫機能がある程度保たれていると推察された。まとめると,アスベスト曝露はCXCR3発現低下により正常な細胞遊走活性の破綻と,腫瘍発生によるIFN-γ産生能の低下により抗腫瘍免疫機能を減衰させると考えられた。
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