研究概要 |
昨年度は,石綿曝露が誘導する免疫異常として,ヒトCD4^+ T細胞へのin vitroの石綿慢性曝露実験を基に,中皮腫症例の末梢CD4^+ T細胞におけるTh1型ケモカインレセプターCXCR3とIFN-γ発現低下を見出した。そこで本年度は,腫瘍の増殖に関与しており治療標的として注目されているTh17細胞から産生される炎症性サイトカインIL-17について,in vitroで石綿慢性曝露したCD4^+CXCR3^± T細胞のIL-17発現を解析し,CXCR3およびIFN-γ発現の関連性について検討することを目的とした。曝露実験には,健常人由来の末梢血単核球細胞からFACS AriaによってCD4^+ T細胞,CD4^+CXCR3^± T細胞を分取し用いた。細胞は,抗CD3/CD28抗体で刺激しIL-2存在化で増殖させ,白石綿存在・非存在化で培養した。曝露4週間後に白石綿を除去した細胞は,FACSによる細胞膜のCXCR3発現解析およびIL-17とIFN-γの細胞内発現解析に供した。CD4^+ T細胞とCD4^+CXCR3^- T細胞のCXCR3発現は,CD4^+CXCR3^+ T細胞に比べると低いが,抗CD3/CD28抗体刺激により高まり,白石綿曝露により低下した。一方,CD4^+CXCR3^+ T細胞のCXCR3発現は石綿曝露で変化しなかった。IFN-γ発現は,白石綿曝露により全ての細胞において阻害された。IL-17発現は,白石綿曝露により全ての細胞において高まっており,中でもCD4^+CXCR3^+ T細胞において発現の高い細胞が顕著に認められた。また,抗CD3/CD28抗体刺激したCD4^+CXCR3^+ T細胞は,白石綿曝露によってTh1細胞の転写因子であるT-bet発現が阻害される一方で,Th17細胞の転写因子であるRORγtの発現が高められており,白石綿曝露によるIFN-γ産生阻害,IL-17産生促進したサイトカイン産生変化の結果と一致していた。これらの結果から,中皮腫症例の末梢CD4^+ T細胞のCXCR3発現低下は石綿曝露によるCXCR3発現誘導の阻害と,CXCR3発現細胞の減少により生じており,石綿曝露はTh1型のCXCR3発現誘導とIFN-γ産生を阻害することで抗腫瘍免疫機能の減弱を引き起こし,IL-17を産生するRORγt陽性細胞を誘導することで腫瘍の増殖を促す可能性が示唆された。今後,免疫診断指標への利用に更なる期待が持たれるところである。
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