胃癌の予防にはヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)除菌治療が有効であるが、除菌後に発生する胃癌を完全に抑制することはできず、除菌後胃癌に対する新たな予防法開発が求められている。本研究では、齧歯類胃癌モデルを用いて、既存の微小癌組織を退縮させる効果をもち、近年の疫学調査で胃癌予防効果を示すことが報告されているアスピリンによる除菌後胃癌の化学予防効果について検討する。 平成22年度は、使用予定であったSPFスナネズミ(MGS/Sea系)が生産工場での感染事故により購入不能となったため、他系統(MON/Jms系)による予備実験を実施した。5週齢、雄のMON/Jms系スナネズミ24匹にピロリ菌または培養液を胃内接種し、2ヶ月後にピロリ菌の感染率および慢性胃炎の程度について検索した。一部の動物には2ヶ月目にアモキシシリン・クラリスロマイシン・ランソプラゾールの3剤併用療法による除菌治療を施し、1ヶ月の経過観察後、除菌の成否を病理組織学的・分子生物学的に確認した。その結果、MON/Jms系のスナネズミにも高率にピロリ菌感染が成立し(15/16、94%)、高度の慢性胃炎が惹起されることが明らかとなった。また、除菌治療によって炎症は著しく軽減し、胃組織を用いたヘリコバクター選択培地によるピロリ菌培養、およびRT-PCR法によるピロリ菌遺伝子の検出を行ったところいずれも陰性で、除菌効果が確かめられた。 今後、MON/Jms系スナネズミを用いて、アスピリンによる除菌後胃癌抑制効果を検討するための長期実験を実施する予定である。
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