研究概要 |
新しく開発された「高感度15N-PON(粒状有機態窒素)・15N-TDN(溶存態窒素)法」を使って、現在の海洋における結合態窒素収支のアンバランスを解決するために、過小評価されていると考えられている「窒素固定フラックス」の見直しを行った。 平成22年度は、貧酸素層での結合態NのN2化速度が大きいことから、それを補う窒素固定速度も大きいと考えられる太平洋に焦点をあて、初夏の西部北太平洋の北緯10゜から北緯40゜までの海域を調査する航海に参加し、窒素固定速度の定量を行った。海水試料を深さ方向に6層採取し、総PONやTDNの窒素同位体組成の変化速度を定量する少容量培養実験を行った。また、窒素固定速度の時間変化を調べるために、12,24,48時間培養を行った。特にTDN(大部分がDON)画分への窒素固定率に着目し、生物種や環境因子(栄養塩濃度、水温、日射量等)との関係の解析を行った。 その結果、西部北太平洋の低緯度から中緯度域では窒素固定が活発に行われていることが分かった。さらに、従来は無視されていたTDN(大部分がDON)画分への海洋窒素固定速度を、新分析法により初めて直接定量化することに成功し、その速度はPON画分への海洋窒素固定速度に匹敵する大きさであることが見積もられた。特に北緯30゜~40゜におけるTDN画分への窒素固定率は4分の3程度と大きく、生物種の解析から主にトリコデスミウムによって固定された窒素が培養期間中に二次的に放出された結果であることが考えられた。これらの結果より、海洋の総窒素固定量の見積値は、従来の倍前後に増大する可能性があることが示唆された。
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