プロテオロドプシン(以下PR)は2000年に海水をターゲットとしたメタゲノム解析から発見された、光駆動型プロトンポンプである。その後の研究から、外洋表層域の細菌の数十%がPRを持つことが明らかとなり、これらの細菌の炭素循環への寄与率は世界的に注目されている。しかし、PR遺伝子を持つ細菌は"極めて難培養性であり"、これまでに分離株は9株しかなく、PRが生態系のエネルギー流や炭素循環において果たす役割はほとんど分かっていない。 本研究では新規に設計したPR検出用プライマーおよび培養技術を用いて、複数の海域から"難培養性"であるPR保持細菌の分離に挑戦した。これまでに、西部北太平洋、相模湾の水柱から、そして冬季サロマ湖の海氷中から、合わせて50株以上の分離に成功した。またそれらの株を用いて、実際に光をエネルギーに変換しているのかを詳細に解析した。その結果、PRが光を吸収すると、細胞内からプロトンを汲みだすことを世界で初めて実証した。さらに、分光学的手法を駆使し細胞内にPRタンパク質が存在することも確認した。これまでPRの光駆動型プロトンポンプ機能の解析は、遺伝子組み換え大腸菌を用いてしか解析された事がなく、その機能はまだ推定の域を出ておらず、本研究により初めてその機能が直接された。これらのデータから、PRを通して海洋微生物生態系に流れ込む太陽エネルギー量および炭素循環に与える影響の推定が今後可能になると考えられる。
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