易分解性溶存有機態リン(LDOP)は、溶存有機態リンのうちアルカリフォスファターゼ(AP)によって分解され、リン酸塩となる部分を指し、その大部分はリン酸モノエステルからなるとされる。本研究では、亜熱帯海域表層におけるナノモルレベルのLDOP濃度を定量するために、長光路キャピラリーセルを用いたリン酸塩の高感度吸光光度分析法を開発した。まず、分析の基礎的事項として、ブランクおよびスタンダードのマトリックスについて検討した結果、マグネシウム共沈法により海水からリン酸塩を沈殿除去した上澄が最も適していることを確認した。検出限界は3nMであり、検出シグナルの時間分解能は100秒であった。次に、LDOP濃度は試料にAPを添加し、LDOPをリン酸塩に分解して求めるが、AP添加による吸光光度分析への影響が考えられたため、これを検討した。その結果、APに含まれるリン酸塩によりLDOP濃度が過大評価されることがわかったため、予めAPに含まれるリン酸塩濃度を把握しておき、分析後、その濃度分を差し引く必要があると判断した。さらに、リンを含む10種類の化合物を用いて、AP添加によるそれぞれの化合物の分解率について調べたところ、リン酸モノエステルはほぼ完全に分解することを確認した。以上の検討により、ナノモルレベルのLDOP濃度の定量が可能となった。また、現場調査も実施した。淡青丸によるKT-10-13(2010年7月)、KT-10-19(2010年9月)次航海および神鷹丸航海(2011年1-2月)に乗船し、西部北太平洋および東シナ海において、LDOP、粒状リン、リン酸塩、難分解性溶存有機態リンの分布に関する観測を行った。採取した試料のうち、LDOP試料の一部について分析した結果、100m以浅の表層においてLDOPが数~数十nMのレベルで存在することが明らかとなった。
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