易分解性溶存有機態リン(LDOP)は、DOPのうちアルカリフォスファターゼによって分解され、リン酸塩となる部分を指し、主にリン酸モノエステルからなる。亜熱帯海域の表層にはリン酸塩が極度に枯渇した領域が存在するが、その領域における有機物生産を支えるリン源としてLDOPが重要な役割を担っている可能性が推察される。本研究では、LDOPの重要性を評価するために、西部北太平洋の<200mから採取したLDOP、リン酸塩、DOP、粒状リンの試料を分析し、それらの分布特性を詳細に解析した。各形態のリンの分析は、各項目について前処理後、長光路キャピラリーセルを組み込んだ高感度分析装置を用いて行った。全域を通して、LDOP濃度は<3~243nMで変動しており、混合層内では一様に低く、混合層直下で上昇する鉛直分布を示した。リン酸塩については3~374nMで変動し、LDOPと同様な鉛直分布型であった。一方、DOPは20~237nMで推移し、鉛直的に均一もしくは混合層以深で低下する傾向を示した。粒状リンについては1~129nMであり、混合層内で高く、それ以深で低下する鉛直分布型を示した。LDOPは、リン酸塩と同様な鉛直分布を示す一方、粒状リンの鉛直分布とは対称的であり、リン酸塩と同様に生物に利用されていると解釈された。鉛直スケールに併せて水平スケールにおいてもLDOPはリン酸塩と同様な分布を示すことが確認された。さらに、全域におけるDOPに占めるLDOPの割合はリン酸塩濃度が20nM以下の領域で顕著に低下(<20%)しており、これからもLDOPの生物利用が推察された。以上より、LDOPはリン酸塩枯渇域における有機物生産を支えるリン源として重要であることが示唆された。
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